ふぉぐです。
ついさっき、『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』を観終わったので、さっそくレビューしていきたいと思う。
ちなみに、ネタバレ全開でレビューしていくので、まだ観ていない方はご注意を。
では、さっそくレビューに移ろう。
Contents
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』ってどんな映画?あらすじは?
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』は、1981年公開のコメディ映画。男はつらいよシリーズの第27作目。
監督は山田洋次。主演は渥美清、倍賞千恵子、前田吟。マドンナ役に松坂慶子。
また、今作から満男役が中村はやとから吉岡秀隆に変わる。
あらすじとしては、「瀬戸内海のある島で出会った女性と知り合いになり、実はその女性は芸者で、寅次郎はうつつを抜かすことになるのだった」という物語である。
寅次郎は夢を見ていた。
舞台は浦島太郎。竜宮城で乙姫様との生活を楽しんでいた浦島こと寅次郎は、そろそろ帰る時分だと思い、竜宮城を後にする。
お土産に玉手箱をもらったが、なんとその玉手箱を開けると、乗ってきた源公亀に煙がかかってしまい、源公亀が年老いてしまうのだった。
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寅次郎がとらやへと帰ってくると、竜宮城の夢の話をタコ社長にする。
タコ社長の会社の経営は危うく、浮き足立っている寅次郎の夢の話にムカッと来てしまい、寅次郎とケンカになってしまう。
その後、金策のためにタコ社長は出かけたが、そのまま会社に帰ってこないのだった。
心配したとらやの面々と工場の職員たち。寅次郎も「自分に責任がある」と思ったのか、江戸川に身投げでもしてやしないかと、源公とともにくまなく探すのだった。
寅次郎が江戸川を探し終えてとらやに帰ってくると、社長はひょっこりと戻っていた。どうやら次の受注先が決まり、友達とともに飲んでいたという。
それに怒った寅次郎はまたタコ社長とケンカになるが、すぐに落ち着き、次の日の早朝に柴又を後にするのだった。
寅次郎が瀬戸内海のとある小島で商売をして一息ついていると、墓参りに来たとある美人と遭遇する。その女性は「ふみ」という名前で、祖母の墓参りに来たのだという。
少しの間だけ一緒にいた寅次郎は、すぐに商売のために小島を後にするのだった。
数日後、寅次郎が大阪の神社前でテキ屋商売をしていると、なんと偶然にもふみと遭遇。
ふみは実は芸者として生計を立てている女性だった。
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎(第27作)』は、東と西で捉え方の違う物語だった
というわけで『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』を観終わった。
まず最初の感想としては、
「今作はなかなかにねじれこんだ映画だなぁ」
という印象を持った。
外見はいつもの寅さんなのに、内容としてはなかなかに理解するのが難しい…というか。
今作の舞台は「大阪」なのだが、これがまたいつもの「男はつらいよ」とは違うところである。
大阪といえば商人の町。だから、気質としては「売ってなんぼ」というような側面を持っている。包み隠さないというか。
それに対し、東京は侍・武士の文化が根強い。「カッコつけてなんぼ」というか。「カッコ悪いものは悪だ」というような気質を持っている。切腹なども、その例としてあげられるのではないだろうか。
今作のマドンナであるおふみは、まさに関西気質が強めの女性である。
だから、包み隠さずに寅さんの元へやってくる。弟がすでに亡くなってしまったことのショックを引きずり、ひたすらに寅さんへとしがみつこうとする。
しかし、当の寅さんは「そういうの」が苦手である。
賢明な「男はつらいよシリーズ」のファンなら「そういうの」というのがどんなものかすぐに察してくれたはずだ。
寅さんが苦手な「そういうの」とは、まさに肉欲的な…そういう類のものである。
「100分de名著」というNHKの番組があるが、その「夏目漱石の三四郎」を紹介する回で、
三四郎も、あしたのジョーも、寅さんも、ある意味で童貞的
という言葉が出たのを記憶している。
確か伊集院光さんが放った言葉だったと思うのだが、この言葉には深く感銘を受けた。
「なるほど、確かに寅さんは童貞的だなぁ」
と納得した。
女性からなんとなく肉欲的な…いわゆる「性」的なものを感じてしまうと、寅さんは急に臆病になる。
それまではマドンナが寅さんの元へやってくるたびに、ニヤニヤヘラヘラしてついて行っていたのに、急にマドンナからそういう匂いを感じてしまうと、すぐに怖気付いてしまうのである。まさに童貞的だ。
今作の寅さんは、まさに童貞的であり、その寅さんの臆病極まりない姿に、マドンナは失望する。
そして、朝早くにタクシーを拾い、男に捨てられた女性のようにそそくさと寅さんが泊まっているホテルを後にする。
寅さんの部屋には、寅さんにとって辛辣な言葉が書き綴られており、寅さんはその日のうちに大阪を後にするのだった。
マドンナの、意識のない復讐
大阪を後にする直前、宿屋の喜助が寅さんに放った言葉が感慨深い。
「なんでそないカッコつけるんや?たまにはカッコ悪くてもええから、女性にしがみつくぐらいがええで」
ということを言っていた。言葉の節々は違うと思うけど。
これはまさに、商人の町として栄えてきた大阪らしい考え方である。
女性を射止めたいと思うなら、とにかくしがみつくぐらいに追って追って追いまくる…。
しかし、寅さんにしてみればそんなことはできない。誇り高い武士が「俺と結婚してくれなきゃ嫌じゃ〜〜!」と泣きわめくなんてものは、プライドが許さない。それこそ切腹ものである。
だから、寅さんは「ありがたい言葉、ありがとうよ」といって、さらっと受け流す。
東京へ戻ってくると、マドンナが寅さんに伝えたいことがあると言ってとらやへやってくる。
「うち、結婚するんよ」
と。
寅さんからすれば、かなりの復讐劇に感じられたはずだ。というのも、かっこつけることが本能的に刻まれている寅さんにとって、ホテルで違う部屋で寝たあのことを根に持ってるとしか考えられなかったのだ。
だから、寅さんは「おふみさんの気持ちも考えたらどうなの?」というさくらに告げる。
「俺の気持ちも考えてくれ…」
ハガキで伝えればそれでいい、わざわざ対馬に住むというのに、東京へ出てくる道理はないはずだ。
だから、寅さんはおふみが自分に復讐をしているように感じられてしまったのだ。
当のおふみ自身は、自分が復讐をしているなんてことはみじんも思っていない。
それが商人の町としての流儀であり、弟が亡くなっていたと知った時に、人目もはばからず泣いてしまうことと繋がっているわけだ。
寅さんにとってみれば復讐。
おふみにとってみれば礼儀。
この違いがよく現れた作品だったように思う。
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』を総合評価するなら?
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』を総合評価するなら、星5中の星5評価である。
全体として高評価に値する作品だと思う。
演出も良いし、コメディ要素の中に深い哲学的なテーマも孕んでいる。そして文化の違いも垣間見えるので、それらが複合的に良い具合に混ざり合っているのがまた面白い。
星5に値するぐらいの良作ではないだろうか。
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』はどんな人にオススメ?
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』は、哲学的なテーマで「男はつらいよ」を鑑賞したい人におすすめである。
男はつらいよシリーズには、数本哲学的なテーマで描かれている作品があるのだけれど、今作はそれらと同じくらい深いテーマとなっている。
ぜひ、鑑賞してみてほしい。
終わりに
『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』についてレビューしてきた。
余談だが、今作からついに満男役が中村はやとから吉岡秀隆にチェンジした。
なぜ吉岡秀隆にチェンジしたのか…詳しい理由はわからない。なんとなく闇のようなものを感じたりするが、私の気のせいであると思いたい。