ふぉぐです。
ついさっき、『男はつらいよ 寅次郎子守唄』を観終わったので、さっそくレビューしていきたいと思う。
ちなみに、ネタバレ全開でレビューしていくので、まだ観ていない方はご注意を。
では、さっそくレビューに移ろう。
Contents
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』ってどんな映画?あらすじは?
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』は、1974年公開のコメディ映画。
監督は山田洋次。主演は渥美清、倍賞千恵子、前田吟。マドンナ役に十朱幸代。
今作から3代目おいちゃんの下條正巳に変わる。
あらすじとしては、「旅先で捨て子を引き取ることになった寅次郎が、柴又へ帰ってきて、赤ん坊を連れて行った病院の看護婦に恋をする」という物語である。
寅次郎は夢を見ていた。
子どもができないさくら夫婦は、一生懸命神社へお参りに行き、子宝に恵まれるように祈っていた。
すると、神社の側が光だし、赤子がポツンと揺りかごに入っていた。
そこに、神様風の寅次郎がやってきたのだった…。
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とらやでは大慌てになっていた。
ひろしが、工場で使っている機械に腕をもっていかれ、そのせいで怪我をしたのだった。
さくらは自転車を飛ばし、急いでとらやの元へいき、その後ひろしが行っているという病院へ急行する。
幸いにも、服の袖が持っていかれた影響で手を少し怪我した程度の軽傷で済んだ。
とらやで団欒をしていると、そこに寅次郎が帰ってくる。
寅次郎は、ひろしの怪我を茶化す。そのことが原因で、いつものごとく険悪な雰囲気が流れ、寅次郎はサッと家を飛び出すのだった。
九州は唐津で商売をしていた寅次郎。
旅先の旅館で知り合った子連れの男性と飲んでいたが、なんとその男性が子どもだけを置いて蒸発。寅次郎は子どもを連れたまま商売をするわけにもいかず、九州から柴又へ一旦帰郷するのだった。
『男はつらいよ 寅次郎子守唄(第14作)』は、寅さんの優しさが裏目に出る作品だった
というわけで『男はつらいよ 寅次郎子守唄』を観終わった。
まず最初の感想としては、
「寅さんの優しさが裏目に出てるなぁ…」
という印象である。
男はつらいよシリーズにおいて、寅さんの優しさが裏目に出ないことはあまりないのだけれど、今作に至っては特に優しが裏目に出てるのが顕著に表れているなぁ…と思う。
大まかにいうならば、次の二つである。
- 捨て子を連れ帰る優しさ
- 告白を促す優しさ
それぞれ詳しく見ていこう。
寅さんの、捨て子を連れ帰る優しさ
寅さんは、今作で捨て子を連れ帰る優しさを見せる。
確かに赤ん坊をそのままにはできないし、あの父親が寅さんの優しさに漬け込んだことは大いに認める。
しかし、寅さんはそうであっても寅さんであり、人情味の強い男に変わりはない。
その優しさでとらやへ帰郷し、初めは誤解をされるも誤解が解けるとすぐに赤ん坊はとらやの人々へと馴染んでいく。
だが、最終的には寅さんの元に父親と、そしてストリップで働く女性がやってきて、赤ん坊を引き取る。
その場に寅さんはおらず、寅さんは最後に赤ん坊の姿を見ないままで別れてしまうことになる。
優しさが裏目に出てしまった寅さんの一幕である
寅さんの、告白を促す優しさ
赤ん坊の一件で病院の看護婦さん(マドンナ)と知り合い、その看護婦さんのつてで合唱サークルを見学することになった寅さん。
そこで知り合った、髪と髭がもじゃもじゃの青年と仲良くなり、さらには告白を促すような手伝いまでしてしまう。
寅さんは優しく、人の色恋に関しては助けてやらなきゃいけない…というような使命感を持つ。
今回の恋敵である大川弥太郎(上條恒彦)は、とらやの面々から見ても、
「あれなら寅さんの方がマシだねえ」
と言われてしまうぐらいの風貌をしている。まさに芸術家っぽい風貌で、万人ウケはしないタイプだ。
しかし、最終的に寅さんは暗に振られ、看護婦は大川弥太郎と付き合うことになる。
ショックを受けた寅さんは、その日のうちにとらやを出ていくのだった。
赤ん坊のあやしも恋愛も下手な、寅さんの滑稽さ
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』では、男はつらいよシリーズでは珍しく、赤ん坊を主軸においたストーリー構成になっている。
そのため、必然的に寅さんも積極的に赤ん坊と接していく展開を見せる…が。
この「赤ん坊との接し方」がいかにも寅さんらしい。
寅さんと同じようなキャラクターで(というか、作者の秋本さんが大ファンの)、こち亀の両さんがいる。
こち亀にも、小さい子どもと両さんがいざこざを起こすようなシーンがいくつも登場する。両さん自身がまだ子どもっぽいから、子どもに対して同じ目線で当たってしまうのである。
今回の寅さんもまさにそんな風体をしている。
普段、子どもと縁がないような暮らしをしている寅さんだからこそ、赤ん坊と接した時の挙動がおかしく、そして不審で面白い。
挙げ句の果てにはとらやの面々から呆れられ、
「ほらよ、お母ちゃんだよ」
と赤ん坊をさくらに預けようとするも、
「私はお母ちゃんじゃありません」
と冷たくあしらわれてしまうシーンには大爆笑してしまった。そりゃそうなるよ寅さん…笑。
そしてこの滑稽さは、シリーズ全編を通しての軸になっている「恋愛」にも引き継がれている。
八千草薫がマドンナ役をした『男はつらいよ 寅次郎夢枕(第10作)』は特に寅さんの恋愛下手さ加減が顕著に表れた作品だったが、今作は「赤ん坊&恋愛」という、二つのベタさを主軸に起き、それらを対比させるような形で寅さんの滑稽さを描いた作品になっているなぁと思った。
懸命さは、伝わる
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』で少しホロっと涙を流しそうになったのが、大川弥太郎によるとらやの面々の前での告白シーンである。
緊張しながら、そして拙い言葉を並べながら、マドンナである木谷京子へ自分の想いを伝える。
寅さんから見ても、
「お前はモテないだろう」
と言わしめるほどの風体にも関わらず、木谷京子は大川の言葉を受け取り、次の日には「会いたくなった」といって会いにいくほどの様相を見せる。
大川の、昨晩とは一転して幸せに満ちた表情とは裏腹に、寅さんの顔は浮かない。
そりゃそうだ。
自分も恋い焦がれていた木谷京子が、自分よりもモテないだろうと思っていた大川と結ばれてしまったのだから。
ここでもまた、寅さんは自分に「ここは俺の生きる場所じゃない」と察する。
寅さんは、心の中でおそらく、大川を見下す(寅さんほどにもなると、見下すというより「こいつには勝ってるだろう」という慢心)ようなことを思っていたのではないだろうか。
しかし、そんな慢心をしていた男を選ばず、木谷京子は不器用な大川を選ぶ。話も下手で、風貌も汚い大川を選んだ。
「一生懸命さは、人に伝わる」
そんな想いを持って、山田洋次監督はこの映画を、このシーンを撮影したのかもしれない。
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』を総合評価するなら?
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』を総合評価するなら、星5中の星4評価である。
個人的にはちょいとダレるシーンがあったので、そこを加味して星4評価とさせていただく…が。
いつもの寅さんではなく、どちらかというと変わり種的な一面が強いので、そういう点ではとても楽しめる作品なのはいうまでもないだろう。
個人的に大川弥太郎の風貌が好きなので、その点も良し。
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』はどんな人にオススメ?
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』は、男はつらいよシリーズにマンネリを感じている人に見ていただきたい作品である。
男はつらいよシリーズは、だいたい同じような構成になっていることが多いが、今作はさっきも言ったように変わり種的な作風なのでオススメできる。
終わりに
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』についてレビューしてきた。
余談だが、今作からおいちゃんが3代目の下條正巳に変わる。
2代目おいちゃんが結構すぐに変わってしまったので、さほどのギャップはなかった。
どうやら、初代おいちゃんの森川信、そして2代目おいちゃんの松村達雄に比べ、3代目おいちゃんの下條正巳は寅さんとの楽しい掛け合いが少ないことでちょっと批判されたこともあったらしい。
だが、今作からずっと下條正巳がおいちゃんを続けていったことを考えると、寅さんのよさを活かしつつ、それでいてキャラクター性もちゃんとあるおいちゃんだ…と山田洋次監督に見初められたのではないだろうか。
確かに、初代・2代目に比べるとどこか物静かな雰囲気がしないこともないけれど、それもまた味である。