ふぉぐです。
ついさっき、『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』を観終わったので、さっそくレビューしていきたいと思う。
ちなみに、ネタバレ全開でレビューしていくので、まだ観ていない方はご注意を。
では、さっそくレビューに移ろう。
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『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』ってどんな映画?あらすじは?
『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』は、1974年公開のコメディ映画。男はつらいよシリーズの第13作目。
監督は山田洋次。主演は渥美清、倍賞千恵子、前田吟。マドンナ役は、今回で2度目となる吉永小百合。
あらすじとしては、「苦労して結婚した夫と死に別れた歌子と出会い、柴又でいざこざが起きる」という物語である。
寅次郎は、夢を見ていた。
タコ社長が仲人として結婚式をしていて、とらやへと顔見せにやってきた。
しかし、店先で肩を落としているさくらをみて、寅次郎は声を掛ける。
すると、奥からひろしがやってきて、おいちゃんとおばちゃんが亡くなってしまったことを寅次郎に告げるのだった。
目が覚めると、寅次郎は列車の中。
東京は葛飾の柴又へ帰ってきた寅次郎。なぜ柴又へ帰ってきたのか…というと、温泉津温泉で働いているお絹さんという女性のことを、とらやの面々に「どうかな?」と聞きにきたのだという。
とらやの面々は、早合点して「寅さんが結婚する」と近所にふれこみ回った。
しかし、結局は寅次郎はお絹さんと結ばれることなく、散ったのだった…。
タコ社長とさくらとともに島根県は温泉津温泉まできた寅次郎だったが、タコ社長とさくらを置いて一人、早朝から旅へ出かけるのだった。
島根県は津和野でうどんを食べていると、若い女性が図書館で発行しているポスターを貼りに店にやってきた。
その女性は、柴又慕情(第9作)で陶芸家の青年と結婚した歌子だった。
喜びの再会はしたものの、歌子には心の中に暗い影を持っていた。
それは、結婚したばかりの青年が、昨年に重い病気にかかって亡くなってしまったのだという。そのため、今は未亡人として青年の家族宅で姑らとともに暮らしている…とのことだった。
寅次郎は、「2〜3日、ここにいてもいいけどな」と言うが、歌子はそれを「悪いから…」という理由で丁重に断った。
寅次郎がバスに乗った瞬間、無理やりな笑顔で寅次郎を見送る歌子を見て、寅次郎はやるせない気持ちになっていたのだった。
『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ(第13作)』は、柴又慕情よりもツライ失恋話だった
というわけで『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』を観終わった。
最初の感想としては、今作は第9作「柴又慕情」よりも、失恋話としてかなりツライものになってしまっている。
というのも、今作では明確な寅さんの恋敵(マドンナの交際相手)が出てくるわけではないからである。
そう、歌子の夫は亡くなってしまっているから、歌子の中でどんどんと夫への思い出が美化されていく。
その点、寅さんとの思い出は蓄積こそされていくものの、亡き夫と過ごした美しき日々(実際に美しかったどうかよりも、亡くなってしまったがゆえに美化されていくという意味で)は色あせることはない。
つまり、寅さんの今回の敵は完全無敵なのである。
だからこそ、寅さんは黙って柴又を出ていくしかなかった。
歌子に別れも告げず、さくら以外にも別れを告げず。
とらやを出ていくときに寅さんがさくらに放った一言が粋でかっこいい。
「お兄ちゃんがいないと、みんな黙ってテレビを見てるのよ」というさくらに対して、
「そう思われているうちが華よ」
と言って旅へ出てしまうのである。
この潔さ、そして普段はべちゃくちゃと多くを語る寅さんが、ほぼ無口のままで出ていくこの背中で語るかっこよさ。
完全無欠の恋敵への敗北を味わうと同時に、男の生き様を見せてくれた寅さんだったのだ。
「友達」のつらさ、そして浴衣の歌子と寅さん
前作「男はつらいよ 私の寅さん」でも出てきたが、
「友達」
という単語が、今作『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』でも出てくる。
寅さんに向かって、歌子が「寅さんのような友達がいて幸せよ」なんていうシーンだ。
そう、寅さんはこの時点で歌子に振られているのである。
寅さんは、おそらく心の中ではそんなこと、わかりきっていたのだと思う。
確かに、歌子をお嫁にしたい気持ちはあるだろうし、お付き合いしたい気持ちもある。
だから、寅さんは歌子に「何もせずにとらやにいればいいんだよ」と言う。
しかし、さくらからしてみれば、それは寅さんのエゴであり傲慢であり、歌子の気持ちではないことは明白だった。
このことをさくらから突きつけられたとき、寅さんは「確かにそうだ」という表情を浮かべる。
そして極め付けは、最後のシーン。寅さんが歌子の家へと赴き、
「浴衣…綺麗だね」
というシーンだ。
なんとも叙情的で、そして男の気持ちを儚く表しているシーンだろう。
寅さん的には、もうあの時点では旅に出る決意をしていたはずだ。
でもせめて最後に、歌子の顔を見てから行きたい。
家へよると、歌子は浴衣。
自分が触れてしまっては壊れてしまいそうなほど可憐な歌子を、寂しがらせるようなことは言わない。
「これから旅に出る」
なんて言ったら、それこそ押し付けがましい傲慢な男の出来上がりだからだ。
だから、寅さんは多くを語らず、
「浴衣…綺麗だね」
と、歌子に対して好意にも悪意にも取れず、ただ純粋に見たままの光景を説明するような言葉を吐いたのである。
しかし、歌子にその言葉は聞こえなかった。
「なんて言ったの?」と聞いても、教えない寅さん。
そしてシーンは変わり、とらやでみんなが花火を楽しんでいるシーンへ切り替わる。
誰にも見つからないまま、2階へ荷物をとった寅さん。
ちょうどさくらにだけは見つかったが、さくら以外の面々は花火に夢中。それはまるで、歌子のように。
もしあのとき、さくらでさえも気づかなかったら…寅さんは一人で出て行ってしまっていただろうか。
おそらく、寅さんは一人で出て行っていたと思う。誰にも気づかれないように、こっそりと。
その寅さんの心情が、やけにリアルで生々しく、「渡世人」という属性を上手く生かして失恋へと繋げているなぁと感心した。
もし寅さんが渡世人じゃなかったら、旅へ出かけることもないかもしれない。
渡世人だからこそ、あのような切ないシーンを描けるのである。
『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』を総合評価するなら?
『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』を総合評価するなら、星5中の星5評価である。
個人的には大満足の出来。
ぶっちゃけ、ここまで見た男はつらいよシリーズの中では随一に切なさが強い。そして寅さんの心情とシンクロして泣けてしまう。
あれだけ無邪気で優しい歌子のような女性がいたら、寅さんじゃなくても惚れてしまうよ。まさに、男はつらいよってやつですかな。
『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』はどんな人にオススメ?
『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』は、切なさが際立っている作品なので、そういう気分に浸りたい人にオススメである。
前半は笑える要素が多いが、後半になるにつれてどんどん切なさが増す。そして最後にはドーンっと大きな衝撃が心にくるだろう。
寅さんの心情に、あなたもシンクロしてみないか。
終わりに
『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』についてレビューしてきた。
余談だが、吉永小百合さんは本当に美人である…。
そして気品がある。というか、マドンナ役の女性しかり、さくら役の倍賞千恵子然り…。
あの時代の女性たちは、どこか声に張りがあって気品が強いなぁと思う。なんだか上品だ。
心地良いぐらいに気立てがいいので、みているこっちも穏やかな気分になる。
あんな時代も、また悪くはないなぁと思ってしまった。