ふぉぐです。
ついさっき、『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』を観終わったので、さっそくレビューしていきたいと思う。
ちなみに、ネタバレ全開でレビューしていくので、まだ観ていない方はご注意を。
では、さっそくレビューに移ろう。
Contents
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』ってどんな映画?あらすじは?
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』は、1980年公開のコメディ映画。男はつらいよシリーズの第25作目。
監督は山田洋次。主演は渥美清、倍賞千恵子、前田吟。マドンナ役に3度目の出演で浅丘ルリ子。
あらすじとしては、「旅先で病気になってしまったリリーを見舞いに行くため、寅次郎が沖縄までいく」という物語になっている。
寅次郎は夢を見ていた。
鼠小僧寅吉として、悪どい商売をしている奴らから小判を盗み、正直者で貧しい暮らしをしている人々に分け与えていた。
ある晩。いつものように盗みに入ると追っ手に終われる寅吉。逃げ込んだ民家では、なんと生き別れた妹の「おさく」と再開。寅次郎は追っ手から逃げるのだった。
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タコ社長の印刷工場が経営不振。ひろしまでもが出来上がった印刷物を届けに行かされる始末になっていた。
ひろしが小岩のキャバレーに印刷物を届けに行くと、なんとリリーと再開。リリーは寅次郎のように転々と旅を続け、この後も大阪に行く予定なのだという。
ひろしが家に帰ってリリーに会ったことをとらやの面々に伝えると、偶然にも寅次郎から電話がかかってくる。
リリーが会いたがっていたことを話すと、嬉しそうな声を出しながら電話は切れてしまうのだった。
そしてひと月後。とらやの面々が新緑の季節に水元公園へピクニックに出かけようとしているところへ、ちょうど寅次郎が帰ってくる。
寅次郎はとらやの面々が自分が帰ってきたことを迷惑そうにしている様をみて不機嫌になり、プイッと出て行こうとしたが、ちょうど手紙がとらやへ届くのだった。
その手紙には、なんとリリーが血を吐いて倒れ、沖縄の病院にいる…ということが書かれていた。
すぐさま寅次郎はリリーの元へ駆けつけようとするのだが…。
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花(第25作)』は、切なく粋な恋愛物語だった
というわけで『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』を観終わった。
まず最初の感想としては、今作は切なくて粋な恋愛物語だったように思う。かなり粋である。
というのも、今作ではなんと寅さんからプロポーズのようなことを口走る。
「俺と、所帯を持つか…」
なんて。
そして寅次郎はハッと我に返り、
「俺、なんか変なこと言ったか?」
と言う。
そしてリリーは、それを冗談だと言って受け流すのだった。
それはまるで、第15作の寅さんのように。
2人は、「カタギ」という言葉をよく使う。
つまり、寅さんやリリーのようなフーテン暮らしではなく、ちゃんと地に足をつけた生活を送っている人のことである。
もし、寅さんやリリーがカタギなのだとしたら、寅さんの「所帯を持つか」という言葉は立派なプロポーズになるだろう。そこから結婚へとすぐに発展してもおかしくない。
しかし、寅さんもリリーもカタギではない。
寅さんはいつぞや、紅奈々子(木の実ナナ)が登場する第21作で、
「俺の夢はテキ屋になることだった」
と語っている。
寅さんにとってみればテキ屋商売が理想であり、そこには辛いことも悲しいことも楽しいこともあるということは重々承知している。
だから、カタギになるということは、寅さんにとって死を表すのかもしれない。
それはリリーにも同じこと。しかし、リリーはちょいと毛色が違う。
リリーは、寅さんと沖縄で同棲のような暮らしをしているときに、
「女心なんてわかりゃしないんだろうね」
と寅さんを責めるシーンがある。
つまり、リリーからしてみれば、「所帯を持つ」というのは歌手活動と同じくらいの夢なのである。
だが、寅さんからの何気ないプロポーズを、リリーはやんわりと受け流す。
女心がわからない寅さんだが、男心を理解しているリリー…という感じだろうか。
リリーは、寅さんと一緒になってもいいと考えていた。それは寅さんも同じこと。
しかし、2人は粋である。単純な恋愛物語のように、お互いが好きだからすぐにくっつこう…なんてことにはならないわけだ。
一緒になりたいけれど、一緒になることはできない。そんな切ない恋物語だったように思うのだ。
最後の、リリーと寅さんの掛け合い
今作の最後では、リリーと寅さんがもう一度出会い、まるで知らない人かのような掛け合いを始める。
このシーンが、個人的には「男はつらいよ」の真骨頂のような気がしてならない。
あんなシーン、他の映画では観たことがない。
東京にいる自分が、「病気で沖縄にいます」という手紙だけを頼りに沖縄へすっ飛んで行き、かと思いきや沖縄に置き去りにされ、三日三晩何も食べずに東京へ帰ってきて、そしてプロポーズは受け流される…。
こんなにも付き添った寅さんだが、リリーに怒るわけでもなく、かと言って告白するわけでもなく、ただ嬉しそうな顔をして、
「どこかでお会いしましたかな?」
なんて洒落たことを言い出すのだ。
リリーももちろん寅さんの掛け合いに乗る。この粋な2人。どうしようもないほどかっこいい。
リリーが乗っていたバスに乗り込み、2人はどうしたのだろうか。また旅先のどこかで、
「じゃ、達者でな!」
「寅さんもね!」
なんていう言葉を掛け合って別れたのだろうか。
愛し合っているのに結ばれない2人。しかし、失恋とかそういう辛さではない。
まさに「切ない」という表現があっている。辛いわけでも苦しいわけでもない。ただただ切ないのだ。
リリーには夢じゃなかったけれど、寅さんには「夢」だったのさ
今作『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』では、
「夢」
という言葉が何回か出てくる。
病院でリリーが、
「もしかして夢じゃないかしら」
なんて言いながら、寅さんに「どこでもいいからつねって!」と甘えるシーンは微笑ましい。リリーにとってみれば夢ではなかった。それは寅さんにも同じこと。夢ではないのである。
しかし、寅さんがリリーに「所帯持つか…」と言った後、リリーが受け流し、そのあとの寅さんの言葉が印象的である。
「夢だったか…」
いや、夢ではないのである。
リリーも、寅さんと同じように寅さんと結ばれることを望んでいた。しかし、夢として終わらせたかった…いや、自分の中の「歌手」としての夢と、現実的な夢を天秤に乗せたのかもしれない。
それが結果的に「夢」という大言壮語で儚すぎる言葉として、寅さんの口から出たのである。
人の夢と書いて「儚い」と読むけれど、ああ、昔の人ってのはなかなか粋なことを考えていたんだなぁと思う。
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』を総合評価するなら?
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』を総合評価するなら、星5中の星4評価である。
ぶっちゃけ、男はつらいよシリーズの中でも切なさはNo1レベルである。
また、寅さんがプロポーズをした…というのも珍しい。
ただ、惜しむべきは寅さんが旅から帰ってきた時、水元公園に行こうとしていたとらやの面々の態度が個人的には気に食わなかった。
これまで、寅さんが帰ってきたときにあんな態度をとれば寅さんがプイッと出て行くのはわかっていたはずなのに、なぜか学習せずにいつものごとく失敗をしてしまう。
挙げ句の果てにはまるで寅さんが悪いように責め立てるさくらに、久々に「それは違うでしょ」と突っ込みたくなってしまった。
その点を減点して星4評価とさせていただこう。
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』はどんな人にオススメ?
今作は、男はつらいよシリーズの中でも、特に第11作、第15作を見ている人にオススメしておきたい。
この2つを見ておかないと、今作の切なさは伝わらないだろう。
今作だけを見ても感動するかもしれないが、11作と15作を見ておくとなおのこと楽しめるので、この2つを見た人にぜひオススメしたい。
終わりに
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』についてレビューしてきた。
そういえば、今作はオープニングが流れていた時、風景が江戸川の土手ではなく、寅さんの旅先での描写だったのが感慨深い。
いつもと違う演出に、ちょっとドキドキしてしまった。