ふぉぐです。
ついさっき、『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』を観終わったので、さっそくレビューしていきたいと思う。
ちなみに、ネタバレ全開でレビューしていくので、まだ観ていない方はご注意を。
では、さっそくレビューに移ろう。
Contents
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』ってどんな映画?あらすじは?
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』は、1982年公開のコメディ映画。男はつらいよシリーズの第29作目。
監督は山田洋次。主演は渥美清、倍賞千恵子、前田吟。マドンナ役にいしだあゆみ。
あらすじとしては、「人間国宝の陶芸家と出会った寅次郎は、お宅にお邪魔することに。そこで出会った未亡人の女性に想いを寄せるようになる」という物語である。
今作では寅次郎が実際に夢を見た描写は無く(夢から覚める描写がないので、夢ではない)、いつもの夢のような話からスタートする。
寅次郎は放浪の絵描き。とある貧しい家に厄介になるが、その家ではご飯もろくに食べられない環境だった。
せっかくの旅人には良い想いをしてもらおうと思い、家族はなけなしのご飯を炊いて旅人の寅次郎に食べさせようとする。しかし、寅次郎はその家の経済状況を知り、家の主人たちが張り替えたばかりの襖に鳥の絵を描いた。
朝、さくら扮する夫人が起きると、その鳥が襖から飛び出して飛び立っていくではないか。
その絵を見世物として、家族は宿屋を経営するようになったのだった…。
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寅次郎は、京都の葵祭でテキ屋商売をしていた。ひと段落ついたところで歩き回っていると、下駄の鼻緒が切れた老人と出会う。鼻緒を即座に修復したのち、老人と意気投合してお茶をいっぱいすすることになる。
老人と別れて旅館に戻ろうとすると、老人は寅次郎ともっと話したい…と言い出し、すぐそこにある高級料亭に寅次郎を連れていく。
お酒を飲んで酔いつぶれた寅次郎が朝目を覚ますと、そこはその老人のお屋敷だった。
老人は実は人間国宝の陶芸家「加納作次郎」という人物だった。
加納の家で給仕をしている「かがり」という女性が気にかかった寅次郎。
ある日、加納宅に弟子の蒲原という人物が訪ねてくる。
蒲原は、かがりと恋仲にあったようだが、陶芸の道を極めるために良い土を提供してくれる女性と結婚することになる。
そのことがきっかけでかがりは加納にキツイ説教をされる。
すぐに地元の丹後へ戻ってしまったかがりのもとへ、寅次郎はバスを乗り継いでいくのだった…。
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋(第29作)』は、寅さんの甲斐性のなさが露呈する作品だった
というわけで『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』を観終わったわけだが…。
最初の感想としては、
「寅さんって甲斐性がないなぁ…笑」
と思ってしまった笑。今までの寅さんにも甲斐性がないシーンはたくさんあったが、今作は特に甲斐性がない。
江戸っ子気質は日本一だけど、甲斐性のなさも日本一…という感じだろうか。
今作の重要なシーンとして、加納がかがりに説教をするシーンがある。
「人間というものはな、ここぞという時には全身のエネルギーを込めて、ぶつかって行かなきゃあかん」
かがりは、蒲原が他の女性と結婚する…と言い出した時、じっと耐え忍んでいた。
それが加納にとってはイライラするところでもあったのだろう。自分から幸せを掴みに行かないと、幸せが自分からよって来てくれることはないのだから。
加納の言葉を(おそらく)表面的に受け取ったかがりは、「怒られた」というショックと失恋のショックで丹後へ帰ってしまう。
そのことが気にかかった寅さんは、加納に逆に説教をする。
「なんで女心がわからないかねぇ」
加納は、自分が言いすぎたことを反省し、寅さんに丹後へ行ってかがりにあってくれないかというお願いをする。
「風の向くまま気の向くまま」に放浪をしている寅さんにとって、丹後へ行くことは特になんでもないことである。
また、かがりのことを多少気になっていたそぶりがあったとはいえ、まださほどの好意は抱いていなかったはずだ。
しかし、丹後へ行ってかがりと出会った寅さんは、かがりが自分に持っている(かもしれない)好意に敏感に気づき、身を潜めるようにその場をやり過ごす。印象的だったのが寝たふりをする寅さんである。
もし、かがりが寅さんに好意を持っていないことを寅さんが気づいていたなら、
「どうしたんだい?」
なんておとぼけ口調で言うはずだ。それが寅さんであり、道化師のような心を持った人間の末である。
だが、寅さんはかがりの前で寝たふりをし、さらにはかがりが鎌倉で待っていて、そこから色々な場所を行くときでさえも、いつもの寅さん節は鳴りを潜める。
寅さんと満男がなかなか帰ってこない時の、とらやの面々の会話が味わい深い。
ひろし「二人だけだったら、泊まって来ることだってあるだろうけど…」
おいちゃん「寅がそんな事できるわきゃねえじゃねーか」
おばちゃん「そうだよ…そんな甲斐性がありゃ、とっくに身を固めてるよ」
甲斐性があれば、とっくに寅さんはフーテンではないのである。
雷雨の中を走る、寅さん
今作の終盤シーンで、満男を連れたかがりとのデートから帰ってきた寅さんが、すぐに旅へ出てしまうところがある。
その時、雷がなって、雨が降ってくる。
その雨の中を、店で待っていれば良いのに寅さんはそそくさととらやを後にする。
普通に考えれば、「雨」は寅さんの涙である。
満男が、
「かがりさんと別れた後、おじさん、涙流してたよ」
と言ったことからも、「雨」というのは寅さんの心情を表しているように感じる。
しかし、重要なのは雨ともう一つ、「雷」である。
満男と寅さんが帰ってくる前…東京駅からかがりがとらやに電話をかけてくる。
「もう2〜3日東京にいるって言ったんですけど、今夜の新幹線で京都に帰ります」
なぜかがりは帰るんだろう。もう2〜3日東京に居られるなら、東京にいれば良いのに。
これは私の憶測ではあるが、かがりは加納が自分に説教してくれた、「人間はここぞという時にエネルギーをためてぶつからなきゃ」という言葉を実践したわけである。
だから、寅さんのもとへ急に友達を連れてやってきたわけだ。
そして、引っ込み思案の彼女からは想像できないようなこと(寅さんに手紙を渡す)までやってのけ、実際に鎌倉デートを敢行する。
しかし、結果としてはダメだったわけだ。
だから、かがりは怒りが込み上げてくる。
その怒りは、加納に対してでも寅さんに対してでもない。
自分に対しての怒りである。
もし、寅さんに怒っていたのだとすれば、寅さんはとらやに帰ってくる前に涙を流したりしない。
「なんでえちきしょう!あのアマ!」
と、かがりに同じ熱量で接して喧嘩していたはずだ。
つまり、かがりは自分自身に対するやるせなさにひどく怒りを感じた。
そして、すぐに悲しみが襲ったわけだ。
だから、あのシーンでは雷が最初に起こって、その後にだーっと雨が降る。
彼女の悲しみの中を、寅さんは旅へ出かけるのであった。
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』を総合評価するなら?
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』を総合評価するなら、星5中の星4評価である。
いつも同じことを言っているけれど、やはり男はつらいよは面白い。
全体としてさくさくっと話が進んでいくし、コメディ調なので笑えるシーンもいくつかある。
だが、今作のマドンナ「かがり」に関して、人物像がよくわからなかったのが痛手かなと思った。
これまでの未亡人タイプのマドンナなら、夫との関係性や夫の素顔が描写されていたのだが、今作ではどんな夫だったのかがまるで出てこない。
そのため、かがり本人がどういう女性でどんな恋愛をしてきたのか…がまるっきり見えないのだ。
その点を加味して、星4評価とさせていただこう。
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』はどんな人にオススメ?
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』は、いつもとは違うちょっとアダルティな男はつらいよを欲している人にオススメである。
置かれた立場がアダルティなかがりと寅さんの、結ばれない恋愛模様はまさにアダルティである。
終わりに
『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』についてレビューしてきた。
余談だが、今作はいつもの男はつらいよとは異質の作品だったように思う。
まず、オープニングで寅さんが江戸川にやってくるシーンがない。
また、冒頭で寅さんがとらやにやってきて乱闘を起こすこともない。
満男とのやりとりが多め…。などなど。
いつもの男はつらいよとはちょっと違う演出が随所でなされているなぁと思った。
それもそれで、面白いけどね!