ふぉぐです。
ついさっき『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』を観終わったので、さっそくレビューしていきたいと思う。
ちなみに、ネタバレ全開でレビューしていくので、まだ観ていない方はご注意を。
では、さっそくレビューに移ろう。
Contents
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』ってどんな映画?あらすじは?
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』は、1975年公開のコメディ映画。男はつらいよシリーズの第15作。
監督は山田洋次。主演は渥美清、倍賞千恵子、前田吟。マドンナ役に浅丘ルリ子。
あらすじとしては、「旅先で「パパ」と呼ばれる人物と一緒にラーメンを食べているところでリリーと出会い、柴又でまた再会する」という物語である。
寅次郎は夢を見ていた。
海賊船船長のタイガーは、葛飾島を昔出て行った身の上。
奴隷船を襲撃し、見事奴隷たちの解放に成功。奴隷船に乗っていた奴隷たちは、葛飾島の人たちだった。
そこにいたチェリーという女性は、タイガーにとっての妹だった…。
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ある日。11作で寿司屋と結婚し、カタギの生活になっているはずのリリーがとらやを訪ねてきた。
しかし、リリーは寿司屋の旦那と破局し、またキャバレーで歌を歌う仕事に戻り、放浪の旅をしている生活になっていたのだった。
寅次郎に会いにきたものの、寅次郎はいつものごとく留守。仕方なく、リリーは次の仕事場へ向かうために、早々にとらやから引き上げていくのだった。
寅次郎は、青森で兵頭という男性と知り合い、一緒に旅をしていた。
兵頭は、青森の八戸でポツンと一人でいるところを寅次郎に声をかけられ、そのまま一緒に旅をしていた。
兵頭は、都会でサラリーマンをしているごく普通の男性だが、通勤中に不意に「俺の人生はこのままでいいのか」と思い立ち、旅へ出たのだった。
兵頭とともに青森を転々としている中、とある屋台のラーメン屋でリリーとばったり出くわす寅次郎。
そのままリリーを連れて北海道へ渡り、兵頭が小樽で「会いたい人がいる」というので、その女性に会いに行かせるのだった。
女性に会いに行き、戻った兵頭は浮かない顔をしていたので、寅次郎がそれに励ましの言葉をかけていると、リリーが寅次郎の言葉に突っかかり、喧嘩となってしまう。
寅次郎はそのままリリーと別れ、柴又へと戻ってくるのだった。
しかし、偶然にも寅次郎が戻ってきたのと同じタイミングでリリーがとらやへ顔を出し、二人はすぐに仲直りするのだった。
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘(第15作)』は、美しい恋愛ラブロマンスだった
というわけで『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』を見終わったわけだが…。
今作の感想を一言で言うなら、
「美しい話だ…」
という感じである。
とにかく美しい。これまでに見た寅さん史上、最も美しい恋愛ラブロマンスだと思う。
寅さんの話には、
「人情話」
「哲学話」
「恋愛話」
と、それぞれで趣きが異なる。
「男はつらいよ」には主軸として「寅さんが恋をする」という一貫性があるが、その上に「哲学話」であったり、「人情話」などが乗っかっている…といった具合だ。
今作はまさに「恋愛話」が乗っかっていて、それはとても綺麗で美しく、それでいて儚い恋愛話だったように思う。
さくらが、リリーに言った一言に対し、
「私…寅さんだったら良いかな…」
というシーンがとても美しい。
そして、寅さんが帰ってきて、結婚話が持ち上がったことを聞いた寅さんが、
「嘘だろ?」
とリリーに聞き、
「うん!嘘!」
とリリーが嘘をつくシーンもまた、美しく粋である。
寅さんは、リリーと結婚がしたくなかったわけではない。それはストーリーを見ていれば必然的にわかる。
今作の題名にもある通り、柴又駅でリリーと相合い傘をし、なんだかんだと喧嘩をしながらも最終的には仲直りするその様は、まさに夫婦といっても過言ではないぐらいだ。
リリーに「嘘だろ?」といった後、さくらに話すシーンもまた、美しき儚い。
「リリーはよ、頭が良くて気の強い女なんだよ…。あいつも俺とおんなじ渡り鳥よ」
リリーと自分が似ているからこそ、「渡り鳥」という表現を使って結婚に対して暗に反対するその姿はまるで、「粋」という言葉が無性に合う。
ビールのつまみにウィンナーを出すような。そんな息ぴったりの二人にしかわからない、そんなラブロマンスだったのだ。
とらやとケンカ別れをせず、リリーとケンカ別れをした
今作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』で、個人的に「重要だなぁ」と思った点が一つある。
それは、今作においてとらやの面々とケンカ別れをした描写がないことだ。
これまでの男はつらいよなら、
「なんでえ!この家にはもう戻って来ねえかんな!!さくら!止めるなよ!」
といって、寅さんが一度はとらやの面々と喧嘩をしてプイッと出ていくシーンが必ずあった。
しかし、今作ではそんな描写はなく、むしろリリーとケンカ別れをしているのである。
これがまた、今作が特別なものとなっていることの表れかもしれない。
寅さんにとって、マドンナはケンカをする対象ではない。
それはつまり、ケンカをするほども内面を見せられないという思いがあるからである。
寅さんにとって、とらやの面々は自分のことを理解してくれている…という存在である。
だからこそ、ケンカをしても結果的に仲直りしている。
しかし、今作ではリリーとケンカをしてしまう。
11作の時点でも、リリーは酔っ払って寅さんにケンカを売るようなことを言ってしまうが、結果的にケンカには発展していない。
今作では、寅さんとリリーの相性がより強固なものとなったがゆえに、寅さんもリリーとケンカをするぐらいになったわけだ。
歴代のマドンナではありえないような、そんな描写が『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』では見れるのである。
雨がないと、相合い傘はできない
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』の題名にもある通り、今作では名シーンと名高い寅さんとリリーの相合い傘シーンを拝見できる。
このシーンの素晴らしいところは、雨が降っている…というところにあると私は考察している。
晴れた日に、日傘を持って相合い傘をする人はまぁいない。日傘はなくても濡れないが、雨の日は傘がないと濡れてしまう。
この場合の「雨」というのは、世間体や旅先での辛い出来事を表しているのではないだろうか。
寅さんとリリーが身を寄せ合って、一つの「とらや」と書いてある傘に収まるシーンは、まるで「車家」に嫁いでくることを表しているようにも見て取れる。
しかし、結果的に二人は今作で結ばれることはなかった。
雨はいつしか晴れてしまう。雨が降ってたから立ち寄ったまでのこと。
さくらと寅さんがとらやの二階で話している時の寅さんの言葉が深い。
「腹空かしてさ、羽怪我してさ、しばらくこの家に休んだまでのことよ。いずれまた、パッと羽ばたいて、あの青い空へ…。」
青い空が表れた時、相合い傘はもうできない。二人はどこかへ飛んでしまうからだ。
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』を総合評価するなら?
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』を総合評価するなら、星5中の星5評価である。
シリーズ最高傑作と名高い今作だが、うーむ、最高である。
1時間30分と、かなりスピーディに物語が進んでいく様も見ていて心地良い。
兵頭役の船越英二もまた良い味を出しているし、全体としてまとまりが非常に良い。
そして最終盤シーンの、気の強いリリーが寅さんに嘘をつくシーンには胸を打たれる。
リリーなら、
「何が冗談なもんか!私は本気だよ!」
と寅さんにキレてもおかしくはない。しかし、リリーは嘘をついた。そこがまた、人間臭くて美しいのだ。
星5でも低いぐらい、そんな素晴らしい作品だった。
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』はどんな人にオススメ?
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』は、男はつらいよシリーズを見ている人にはぜひ見て欲しい。
この作品を見ないと人生損するレベルで素晴らしい。そして泣ける。有名なメロン騒動もあるし必見だ。
終わりに
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』についてレビューしてきた。
余談だが、浅丘ルリ子演じるリリーは、特別編を含めると5作登場することになる。
寅さんと同じような性格をしていて、寅さんと同じような暮らしをしているリリーは、監督的にも寅さんにぴったりだと思ったのだろう。
第48作目のポスターが、渥美清も浅丘ルリ子も歳をとっていて、なんだかとても切なくなってしまった。
もちろん、悪い意味ではない。もちろん良い意味である。
渥美清は、「寅さん」というもう一人の人生を歩んでいたわけだが、そんな稀有な人生を生きた渥美清に敬意を払いたい。