ふぉぐです。
ついさっき、『男はつらいよ 望郷編』を観終わったので、さっそくレビューしていきたいと思う。
ちなみに、ネタバレ全開でレビューしていくので、まだ観ていない方はご注意を。
では、さっそくレビューに移ろう。
Contents
『男はつらいよ 望郷編』ってどんな映画?あらすじは?
『男はつらいよ 望郷編』は、1970年公開のコメディ映画。男はつらいよシリーズの第5作目。
監督は前作、前前作と山田洋次以外の監督が務めていたが、今作は山田洋次が監督復帰。
主演は渥美清、倍賞千恵子、前田吟。マドンナ役に長山藍子。
あらすじとしては、「寅次郎が以前お世話になったという札幌にいる親分がもうすぐ亡くなりそうな状態なので会いにいく事になる。だが、電車賃がなく、さくらに金を借りようとすると、カタギになって欲しいと強く説得される」という物語である。
とらやのおじちゃんが危篤状態になって、みんなに見守られている夢を見た寅次郎。
なぜだか心配になった寅次郎は、上野からとらやへと電話をかける。
寅次郎から電話がきたということで、「ちょっと脅かしてやれ」とらや夫婦はからかって、
「うちの旦那がもう死にそうなんだよ。この暑さでねぇ…」
と、とらやのおじちゃんが危篤状態になっている風を装うのだった。
慌てた寅次郎は、すぐさまとらやへタクシーを飛ばす。
その道中、葬式屋などを手配して、おじちゃんの葬式を滞ることなく進行できるようにしていた。
とらやへ向かうと、この暑さで参って寝ているおじちゃんを、みんなが見守っている状態担っていた。
「すでにやばい状態なのか」と勘違いした寅次郎。ムクッと起き上がるおじちゃんに驚き、続々とやってくるお見舞いの人々に、「すみません」と謝るのだった。
今回も寅次郎がきたことでケンカになってしまうとらや。
すると、寅次郎の元へノボルがやってきて、
「札幌にいる極道の親分が、アニキに会いたがってます」
と寅次郎に告げる。
その親分は昔寅次郎がお世話になった人物だったので、寅次郎はさっそく北海道へと向かうことにする。
お金がない寅次郎は、とらや夫婦、タコ社長にお願いしようとするもあえなく失敗。
挙げ句の果てには帝釈天の御前様にまで頼むがこれまた失敗。
最終手段としてさくらの元へと行くと、険しい表情で「地道な暮らしをして欲しい」と説教をされる。
あまりの剣幕にマジメな表情をした寅次郎へ、さくらは電車賃を渡し、北海道へ行かせてあげるのだった。
『男はつらいよ 望郷編(第5作)』は、人情と感情が入り混じる良作だった
というわけで『男はつらいよ 望郷編』を観終わった。
まず最初に思ったことは、
「『男はつらいよ 望郷編』は人情と感情とが入り混じっているなぁ」
ということである。
今作において、「人情と感情が入り混じるシーン」は2箇所あると思っている。
1つは、札幌の親分の息子が、実の父親(親分)に会いたくないというので、寅さんが人情を持ち出して説得するシーン。
もう一つは、ずっと「ずっと豆腐屋にいる」といった寅さんが、マドンナが結婚するという話を聞いた瞬間に何処かへいなくなってしまうというシーン。
それぞれ、少し解説をしていこう。
札幌の親分の息子の人情と感情のシーンを解説
寅さんが札幌の親分に会いに行くと、
「息子に会いてえ」
と言われ、なんとか息子を説得しようとするシーンである。
ここで寅さんは、「実の親父になんて会いたくない」という息子に対し、
「おめえさん、それでも赤い血が通った人間かい?自分を生んでくれた親には一度ぐれえ会いてえと思う。それが人情ってもんじゃねえかい?」
と説得する。
すると、息子は以前父親に会いにいった時、とても衝撃的なシーンを目の当たりにしてしまったこと。そして母親に子どもを無理やり産ませて、あとは野となれ山となれ状態だったことを話だし、寅さんは困惑する。
寅さんは人情で息子を説得しようとした。
「実の息子が、実の父親に会いたくないわけがない」
という前提の元である。
確かに、息子にもその感情は存在した。だから、小学1年生の時に父親に会いにいったのである。
だが、そこで見た鬼のようなを目の当たりにし、人情としてではなく感情的に父親のことを受け入れることができなくなったのだ。
人情だけで見るなら、恐らく息子はひどい奴である。死にそうな父親に会いたくないといっているのだから。
しかし、感情で見るなら息子には共感をしてしまう。いっていることもやっていることも意外と道理が通っているのだ。
豆腐屋を逃げた寅さん
もう一つ、人情と感情が入り混じるシーンが、
「豆腐屋を逃げる寅さん」
である。
寅さんがいうような「人情」なら、困っている人を助けることこそが正義である。
そういう意味でいうなら、豆腐屋を継ぐ!といった寅さんはまさに人情家。しかし、その裏には盛大な恋欲があったのは言うまでもない。
そして、最終的にはマドンナが結婚することを知った寅さんは、さっさと柴又へ逃げ帰ってしまう。
もし本気の人情家だとしたら、1人で豆腐屋をやっていかなければならない女将さんの助けをするはずだ。恋欲があえなく果てようとも、女将さんは寅さんの言う「困っている人」なのだから。
しかし、寅さんは自分の感情を優先する。
「マドンナが結婚する以上、俺がここにいる理由もない」
というように。
一見するとクズのような行為にも見えるのだが、これがまた寅さんの人間臭い一面である。
誰だって、好きな人ができるし、その好きな人が誰かのものになってしまう…となれば、心がつらくなるのも当然ということだ。
それは人情家の寅さんにも言えることであり、人情家とはいえど自分の感情には勝てない…という表れでもある。
もし寅さんが、寅さん以外の男が「豆腐屋を継ぐ!」といって逃げてしまったとしたらこう言うのではないだろうか。
「なんでぇ、一度言ったことも守れねえんじゃどーしようもねえやな!」
と。
まさに、自分のことを棚に上げて相手を批判する。寅さんらしく、人間臭いところだ。
今作のマドンナは、善人か
『男はつらいよ 望郷編』のマドンナである三浦節子(演:長山藍子)は、個人的にはとても残酷で善人にありがちな鈍感さを併せ持っているなぁ…と思った。
寅さんが「店を継ぐ」と言った理由なんて、あれだけの笑顔と労働意欲を見せている寅さんを見ていればなんとなく察しがつきそうなものだ。
「私が好きなんだろうな」
と。でもなければ、豆腐屋を継ごうという気にはなかなかならないだろう。豆腐屋に失礼だけど。
なのに、マドンナは最後の最後まで、
「なぜ寅さんは出て行ってしまったのだろう」
と答えを探す。
この鈍感さ。そして残酷さ。
寅さんが踊らされているのを見ている観客としては、今作のマドンナには若干の怒りさえ覚えてしまう。
ちなみに言うが、「善人」という言葉を私は良い意味で使ってはいない。
『男はつらいよ 望郷編』を総合評価するなら?
『男はつらいよ 望郷編』を総合評価するなら、星5中の星4評価である。
うん、安定の寅さんクオリティ。
随所に笑える箇所あり、考えさせられる箇所あり、笑える箇所あり…と。
監督が山田洋次に戻ったことで、人情的な話が冴えているような気がした。
全体としてテンポも良く、サクサク進んで飽きさせない。
ただ、今作はとらや夫婦との掛け合いなどが少なかった気がしたので、その点が個人的には不満かな…。まぁでも、たまにはそんなことがあっても良いとは思うけど。
安定的に面白かったので、星4評価とさせていただく。
『男はつらいよ 望郷編』はどんな人にオススメ?
『男はつらいよ 望郷編』は、ある程度「男はつらいよシリーズ」について知識がある方にオススメしたい。
中でも、1作目〜2作目あたりを見てから今作を見るのがオススメである。
終わりに
『男はつらいよ 望郷編』についてレビューしてきた。
余談だが、今作に出演している、
- 長山藍子(マドンナ)
- 杉山とく子(マドンナの母)
- 井川比佐志(マドンナの結婚相手)
は、どうやらテレビドラマシリーズでの「男はつらいよ」で、それぞれ、
- 長山藍子(さくら)
- 杉山とく子(とらやのおばちゃん)
- 井川比佐志(さくらの旦那、ひろし)
を演じていたらしい。
だから、『男はつらいよ 望郷編』で、マドンナの相手を見たときに、
「俺の妹の亭主にそっくりなんだこいつが!」
と寅さんが言っていたのか…となんだか感慨深くなった。
どうやらテレビシリーズの「男はつらいよ」は、第1話と最終話しか残っていないらしい。残念である。